TOP > 受賞者のコメント

<金賞> 受賞

「ロウソクギンポ タイドプールのくらし」

今井 寛治

今井 寛治さん コメント

「磯の隙間など地形によって海水が残るタイドプール(潮だまり)。カメラマンの間では水面反射の撮影などで利用するのですが、よく見ると様々な生物が暮らしています。2008年の夏、紀伊半島以南の岩礁域で目が大きく、愛らしい顔のロウソクギンポに出会いました。体長6㎝。15年前から和歌山県串本周辺で見かけるようになって、かれこれ10年以上撮影しています。300枚のストックの中から選び、ストーリーを紡ぎました。波にさらわれないよう、外敵から卵を守る健気な姿。体長6㎝の小さな生態が必死で生きているあり様を捉えました。現在、ごみ処理の埋め立てや工事による影響で日本各地の海岸が変わりつつあります。その中には小さな生物による生活の営みがあることを忘れないでほしいと思いました」

<銀賞> 受賞

「ピョンタと山の仲間たち」

岡本 聖

岡本 聖さん コメント

「京都・嵐山に棲む野生の日本猿の群れを撮影しました。準主役のピョンタという、両腕のない(先天的な)奇形の子猿がいます。人間でいうと肘から下がない状態。この子をメインにストーリーをつくりました。名前の由来はピョンとピョンとジャンプすることから。このように被写体と非常に近い撮影は辛抱強さが求められます。彼らがわたしを異物としてみてくれなくなるまでに、およそ1年から1年半まで時間を要しました。それまでは飛びかかられたり、引っ掻かれたりしました。銀塩ポジフィルムの日中シンクロ(強制的にストロボを発光させて影の部分に補助光を与えるテクニック)で撮影したので、コントラストをつけるため日中でもフラッシュをたきました。人間でも目の前でフラッシュをたかれたら怒りますよね。だからサルたちから怒られても当たり前です。でも、そういうことを許してくれて、私のカメラの前でいろいろな表情やポーズをとってくれた、ピョンタをはじめ嵐山のおさるさんにお礼を申し上げたい。奇しくもパラリンピックが開催される今年。ハンデを負っても精一杯たくましく生きる子ザルに勇気をもらいました」

<銅賞> 受賞

「まゆだまマーユとお蚕ちゃん」

松尾 愛子

松尾 愛子さん コメント

「岐阜県の中津川市、養蚕が盛んな地域に移り住み、蚕を6年前から育てています。出来た繭玉を近所の保育園に配ったりしています。ある日、繭玉にどんぐりの帽子を被せたりして娘と遊んでいたら、かわいらしいキャラクターが生まれました。それが繭玉のマーユです。自然の野草などとマーユの写真をインタスグラムで発表していたら、ある人から「絵本になりそう」と言われ、3年間撮りためたマーユの写真を集めて、物語をつくりました。繭のマーヤがお姉さんたちを探して冒険するうちに、蚕蛾になったお姉さんと再会して、お姉さんが産んだ卵を育てるお話です。コロナ禍で閉塞感を感じ、疲れている皆さまに暖かいストーリーを届け、肩の力を抜き、ほっこりと心温まるきっかけになればいいなと思います」

<優秀賞> 受賞

「海のオーロラ」

中村 卓哉

中村 卓哉さん コメント

「水中写真家です。海外の渡航が難しくなりまして、国内の魅力、自然の豊かさを再発見しようと約2年前から国内の秘境、僻地を巡るようになりました。その時に出会った海が鹿児島の薩摩硫黄島の海。鬼界カルデラといって、7300年前に大噴火を起こした場所です。その海底から温泉の成分が常時湧き出ている。青色の海水と温泉の鉄分が交じり合う、神秘な色のグラデーションにひかれました。海外をいろいろ渡った経験の中でも類を見ない景色で、これをテーマにじっくりと撮影しようと思った。非常に過酷な厳しい環境で生きる魚たちの生命力にも胸打たれた。ただ、写真絵本でまとめるときに、マニアックな世界になりがちになってしまう。そこで、友人のフリーダイバー・篠宮龍三くんに被写体になってもらいました。自然に人が入ることでアクセントになる。彼とのフォットセッションにより、暗闇のトンネルを抜け出し、希望の光に向かって泳ぐ姿が、今のコロナ禍で思う気持ちと重なり、力強いメッセージになりました。この賞を機にわたしも写真絵本を盛り上げていきたいと思います」